基礎用語2

特許出願~特許権まで

出願公開

 特許出願後1年6ヶ月経過後に特許庁が発行する出願内容を開示するための公報を公開する制度です。請求によって1年6カ月よりも早く出願公開させることもできます。

 出願公開されると、一定条件下で補償金請求権が発生します。補償金請求権は特許出願してから特許権が発生するまでの間に第三者が公開発明を実施することにより出願人が受ける不利益を補償する権利です。

・補償金請求権

(保証金請求権の発生要件)

(1)出願公開されたこと

(2)公開された発明を実施している相手に警告したこと(相手が出願公開された発明を知っていて、これを立証できる場合は警告はなくても良い)

(3)警告後(実施者が知っていた場合は不要)特許権の設定登録前に、相手が事業として発明を実施したこと

(補償金請求権の内容)

 発明が特許発明であったと想定して、その特許発明の実施に対して通常受けるべき金銭の額(実施料相当額)を補償金として請求することができます。

(補償金請求権の行使時期)

 特許権の設定登録があった後でなければ行使できません。つまり、最終的に特許にならなければ補償金請求権を使うことはできません。



出願審査

 出願に対して特許を与えるべきか否かを特許庁の審査官が判断する手続です。特許制度と実用新案制度では審査制度は大きく異なります。

・特許制度における審査

(1)方式審査

 特許出願が必要な書き方で記載されているかどうかについての審査です。出願すると自動的に方式審査が行われます。不備があると補正命令が出されます。この場合は指定期間内に補正しなければいけません。

(2)実体審査

 特許出願が新規性・進歩性等の実体的な要件を満たしているかどうかを判断する審査です。出願審査請求を行った特許出願のみ実体審査が行われます。なお、出願から3年以内に出願審査請求を行わなかった特許出願は取り下げたものとして扱われます。出願審査請求は出願人だけでなく第三者も行うことができます。

 実体審査で要件を満たさないと判断された場合は拒絶理由が通知されます。拒絶理由通知に対しては意見書・補正書を提出して反論することができます。そして、実体審査で要件を満たしていると判断された場合は特許査定が通知されます。

(早期審査制度について)

 実体審査は原則として出願審査請求がなされた順に行われますが、発明保護の観点から早期に権利化を図るほうが良い場合があります。そこで、出願人が一定条件満たす場合には審査を早く行ってもらえる制度が設けられています。

 出願人が個人、中小企業、大学である、外国にも出願している、既に発明を実施しているなどの条件のいずれかを満たす場合に利用することができます。手続きは審査請求時またはその後に「早期審査に関する事情説明書」を提出すれば足ります。通常1年近くかかる審査結果通知までの期間が2~3カ月程度に短縮されます。また、既に発明を実施しているベンチャー企業等の条件を満たす場合に利用できる、さらに早く審査してもられるスーパー早期審査もあります。

 似た制度に優先審査制度があります。これは出願公開後第三者が特許出願に関する発明を実施していて紛争の早期決着が必要な場合に利用できます。早期審査と優先審査のどちらを利用しても審査期間の短縮は変わらないようですので、条件を満たす場合はいずれを利用しても良いでしょう。

(減免制度について)

 特許に至るまでに実費としてもっとも費用がかかるのが審査請求費です。この審査請求費を減額または免除してもらえるのが減免制度です。

 例えば、減免制度を利用すると、審査請求費が、出願人が中小企業の場合は半額に、小規模企業やベンチャー企業の場合は1/3に、市町村民税非課税などの条件を満たす個人の場合は免除または半額になるなど、減額・免除の優遇を受けることができます。その他にも減免制度を利用できる場合がありますので、特許庁のサイトで確認するとよいでしょう。なお、減免制度は審査請求費だけでなく特許料に対しても利用できます。

・実用新案制度における審査

 実用新案登録出願をすると自動的に基礎的要件審査と方式審査が行われます。方式審査は特許と同じで書類の書き方が審査されます。基礎的要件審査は、出願された考案が物品の構造や形状、組み合わせであるかどうか、公序良俗に反するものでないか、一つの出願でまとめることができない複数の考案について登録を請求していないかなどが審査されます。基礎的要件審査、方式審査で不備があると拒絶理由通知ではなく補正指令が出されます。基礎的要件審査、方式審査で問題がなければ自動的に実用新案登録されることになります。


審判

 審査における審査官の判断が適正であったかどうか等について、3~5人の審判官の合議体が準司法的手続に則って審理し決定する手続を審判と言います。審判の結果に対して不服がある場合は、さらに東京高等裁判所に訴えを提起することができます。主な審判として次のものがあります。 

(1)拒絶査定不服審判

 拒絶査定を受けた場合に、不服がある場合に請求できる審判です。審判を請求する場合は拒絶査定の謄本が送達された日から30日以内に行わなければなりません。

 審判請求の日から30日以内であれば特許請求の範囲・明細書・図面について、範囲の制限はありますが補正を行うことができます。そして、この補正があった場合は、まず元の審査官がもう一度審査することになっています(前置審査)。前置審査で拒絶査定が維持される場合にはじめて審判官による審理が行われます。

 実用新案制度では拒絶査定はないので、この審判は当然ありません。

(2)特許無効審判

 特許が一定の特許要件を満たしていない場合に、利害関係人が特許を無効にすることについて請求することができる審判です。特許請求の範囲に請求項が複数ある場合は、審判は請求項ごとに請求することができます。

 無効の審決が確定した場合は、特許権ははじめからなかったものとみなされます(特許後に無効理由が発生した場合は該当時から)

※特許異議申立て制度

 無効審判に類似する制度として特許異議申立て制度があります。これは特許公報発行の日から6か月以内であれば、だれでも行うことができ、特許異議申立ての審理により取り消し理由があるとされれば特許が取り消されることになります。

(3)訂正審判

 特許後に明細書・図面について訂正することについて請求する審判です。訂正は(1)請求項の減縮、(2)誤記又は誤訳の訂正、(3)明瞭でない記載の釈明、のいずれかを目的とするものに限られます。

 無効審判、特許異義申立が特許庁に係属している場合は訂正の審判を請求することができません。しかし、無効審判、特許異義申立において訂正審判とほぼ同じ内容の訂正ができる訂正の請求をすることができます。

 実用新案制度には訂正の審判はありません。


特許権

 業として特許発明の実施をすることを専有することができる権利です。「業として」とは広い意味で事業として、「専有」とは他人を排除して自分だけという意味に解釈されます。「実施」は次の用語として説明しています。「特許発明」は特許を受けている発明のことですが、現実問題として特許権の効力を判断する場合に最も困難なのがこの「特許発明」の(技術的)範囲です。

 「特許発明」の(技術的)範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められます。この際に、明細書・図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈します。このように書くと簡単そうですが、現実に実施されている具体的な発明が言葉で表した特許請求の範囲の中に含まれるのかどうかの判断はそう簡単にはできないのが実際です。特許権者はできるだけ広く解釈しようとしますし、第三者はできるだけ狭く解釈しようとします。侵害訴訟でもこの点が最も争われます。特許発明の(技術的)範囲の解釈には様々な理論がありますがここでは省略します。一つ言えることは特許請求の範囲はできるだけあいまいなところなく明確に記載し、狭く解釈されそうな所は発明の詳細な説明等でしっかりと説明しておくことが大事だということです。


実施

 実施は発明のカテゴリーに応じて以下のように内容が異なります。つまり、特許権は発明を業としての実施を専有する権利ですから、発明のカテゴリーごとに特許権の効力の内容が異なる事になります。特許権の効力は実施に限られますから、例えば、特許発明の単純な所有や博覧目的の展示などは特許権の効力は及びません。

物の発明
(プログラムを含む)
  • 生産
  • 使用
  • 譲渡等(譲渡、貸渡し、プログラムの通信回線を通じた提供)
  • 輸出、輸入
  • 譲渡等の申し出(そのための展示を含む)
方法の発明
  • 使用
物を生産する方法
  • 使用
  • その方法により生産された物の使用
  • その方法により生産された物の譲渡、貸渡し
  • その方法により生産された物の輸出、輸入
  • その方法により生産された物の譲渡、貸渡しの申し出

 実用新案では物のカテゴリーしかありませんから、実施は ”物の発明の実施” と同じになります。


職務発明

 職務発明とは、「使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」を言います。平たく言うと、会社の従業員が会社の業務範囲で行った発明と考えていいでしょう。

 職務発明について従業者等が特許権を取得した場合、使用者等は自動的に特許発明を実施できる通常実施権を有することになります。

 また、職務発明については使用者側は特許を受ける権利や特許権の譲渡を定めている場合がほとんどです。この場合、従業者は相当の対価を受ける権利を有しますが、相当の対価について明確な評価基準がないのが現状です。

 職務発明以外の発明を従業者が行った場合には、使用者等がその発明について予め特許を受ける権利や特許権の譲渡を受けるような勤務規則等を定めてもそれは無効です。但し、職務発明ではないが、使用者等の業務に属する発明(業務発明)について報告義務を課すようなことは一般的に行われており、その後の協議によって特許を受ける権利等の譲渡を受けることは合法です。

 会社の立場から知りたい場合は「会社が特許制度を活用するにあたって」の「社員の発明は会社のもの?-職務発明について-」も参照してください。


利用発明

 2つの発明があって、一方の発明を実施すると他方の発明を全部実施することになるがその逆は成立しないような場合、一方の発明は他方の発明の利用発明になります。具体的には鉛筆の発明と鉛筆を6角形にした発明を考えた場合に、6角形の鉛筆を作れば必ず鉛筆を作ったことになります(鉛筆の発明を利用)。一方、鉛筆を作っても、それが丸い鉛筆ならば6角形の鉛筆を作ったことにはなりません。このとき、6角形の鉛筆の発明は鉛筆の発明の利用発明です。ある発明を改良すると通常は利用発明になります。なお、共に特許になっている場合に限って特に利用発明と言うこともあります。

 利用される発明aについて特許権Aがあり、利用発明bについて特許権Bがあるとします。この場合は特許権Bをもっていても利用される発明aも利用発明bも原則として実施することはできません。なぜならば利用発明bを実施すると利用される発明aも同時に実施することになって特許権Aを侵害するからです。一方特許権Aを持っている場合は利用される発明aは実施できますが、利用発明bは実施できません。利用発明bは独自に特許性を認められた特許発明なので、利用発明bを実施すると特許権Bを侵害することになるからです。

 このような場合、特許権Bを持っている人が特許権Aを持っている人に実施の許諾を受ければ自己の利用発明bを実施できます。しかし、もし特許権Aを持っている人が実施の許諾について「No!」と言った場合は、特許権Bを持っている人は折角特許を取った利用発明bを実施できなくなります。これは特許法の目的を考えても不合理です。そこで、このような協議が成立しなかった場合は特許庁長官に実施権の設定することについて裁定を請求することができます。そして、通常実施権の設定をすべき旨の裁定があれば特許権Bを持っている人は発明bを実施することができます。なお、この裁定の際に特許権Aを持っている人も特許権Bの実施権の設定について裁定を請求することができます。

(→「特許権を活用するときの障壁」も参照して下さい)


実施権

 特許権者以外の者が特許発明を業として実施できる権利を実施権と言います。実施権には専用実施権と通常実施権があります。

(1)専用実施権

 特許権者との設定契約に基づき特許原簿に登録されることにより発生します。専用実施権の効力は特許権と全く同じです。従って、専用実施権が設定されている範囲内では特許権者といえども発明を実施することはできません。

(2)通常実施権

 通常実施権の効力は発明を実施することができるだけです。従って、特許権や専用実施権のように第三者の実施を排除することはできません。

 通常実施権はさらに許諾実施権、法定実施権、裁定実施権に分けることができます。

a)許諾実施権
 許諾実施権は特許権者もしくは専用実施権者の許諾により発生します。
b)法定実施権
 法定実施権は法律の規定に基づいて発生する実施権です。主なものとして先使用権、職務発明についての実施権があります。
c)裁定実施権
 裁定実施権は行政庁の裁定により特許権者が強制的に設定させられる実施権です。裁定は利用発明を実施したい場合、実施されていない特許発明を実施したい場合、発明の実施が公益上特に必要な場合に請求できます。いずれも協議を求めて成立しない場合に限り請求できます。

・先使用権

 法定実施権の一つで、特許出願のときにすでに特許出願された発明の実施である事業をしている場合、又はこのような事業の準備をしている場合は、この特許出願が特許になっても、通常実施権を得ることができます。この場合、実施している発明は自ら発明したものや、自ら発明した人に教えてもらって実施している等善意で実施している必要があり、特許出願の発明者などから盗み出したりしたものであってはいけません。また、実施できる範囲も事業として実施している発明、準備している発明で事業目的の範囲内において認められます。



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